　長い髪をほどき　風になびかせる君　ビーチパラソルの影で重なるふたりのシルエット
波打ち際を歩き　貝殻を拾い　耳にあてて　「ふたりの未来が聞こえるね」って呟いた

　砂浜に腰を下ろし　いつも僕の肩に頭を乗せていた君
きらきらと光る波に　手をかざし　耳元で「眩しいね」　と囁いた

　君の横顔　優しいまなざし　今でも全部覚えている　夏の恋は　海がよく似合う
すべてが　陽射しにあふれ　輝きを増す季節

　茜色に染まる　夕暮れ迫る海岸通り　肩寄せあって歩くのが　好きだった君
ふたりはいつも映画の主人公
ひとコマひとコマに焼きついたフィルムの長さの分だけ　確かに幸せがあった

　数え切れないくらいの夢を描き　想い出を作ってきたふたり
これから先も　この幸せがずっと続くと信じていた

　やがて　不意に空から天使が舞い降りて　僕から君を奪い去って行った
突然の別離（ピリオド）を演出し　何も言葉に出せず　ただ立ち尽くすだけ
　これまでの想い出という名の生きる証が　音を立てて崩れていく

　いつも僕の隣で微笑んでいたはずの君が　今はもういない　受け入れ難い現実
「ずっと一緒にいよう・・・」　そう交わした約束は　忘却の彼方へ
　そこにいるのが当たり前だったのに　突然訪れたほどけた愛情　途切れた赤い糸

　波と戯れ　はしゃぐ君　それを少し離れて見守る僕　時が過ぎても変わらぬ気持ち
心のキャンバスに描く　記憶という絵の具で塗られた水彩画も　今は涙で翳んで見えない　
　
　「あれはひと夏の幻なのか　それとも真実　･･･」

　我が耳を疑う　病室での医師の宣告　全身を稲妻が貫いた
「夜が来るのが怖い」　幾つもの夜　君はベッドの中で　堪えきれず肩を震わせて
何度も枕を濡らして泣いた　
　
　「ふたりの愛は永遠だよ・・・」　と誓いあったはずの約束
ただ「ごめんね」を繰り返す君のか細い声　張り裂けそうな心で
僕は君を強く抱きしめた

　やがて何かを悟ったように　髪を切り　やわらかな日溜まりの中でまどろむ君は
死と向き合い　何を思っていたのだろう

　しばらくして静かに瞳を閉じて　君は天に召された　深い悲しみだけを残して
振り向きもせず　立ち止まりもせずに　天空と下界をつなぐ　虹の架け橋を
僕だけを置き去りにして　歩いて旅立っていった君

　「あなたに会えてよかった　今日まで幸せな時間をありがとう・・・」　
　それが君の最後の言葉

　嗚呼　神様　できることなら心の叫びを　聞き届けてほしい
心の奥にぽっかり開いた穴を　埋めてほしい
　あの日から　「さよなら」は　僕の一番嫌いな言葉になった・・・

　君を弔い　僕は君の面影を胸に刻む　そして約束の地へと　また歩き出す

　今日は君の誕生日　キャンドルに火を灯し　そっと吹き消す炎
あの時と違うのは　この大切な日を　僕はひとりで迎えたこと
ふたりにとって大事な儀式　同じ時刻　ふたりが結ばれた夜を追憶

　「君を愛している・・・」　ともっと伝えたかった
　君の哀しみをずっと背負っていたかった　それが僕の願いだった

　夢の時間は　時空の彼方へと遠のき　やがて訪れた孤独　

　君がいなくなって気づくことばかり　君が好きだったあの曲は
今では君への鎮魂歌（レクイエム）　時折偲ぶ君との想い出
　アルバムの中の君は　いつも微笑んで　涙に暮れる僕に語りかける

　去年　彼女が逝く直前にしたためた　一通の手紙が僕の元に届いた　
　便箋にしるした　君の本心　たどたどしい文字

　　「今度生まれ変わっても　あなたと一緒にいたい
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　またふたりで夏の海を見に来ようね・・・」
　
　果たせなかった約束　胸が詰まり　唇を震わせ　返せなかった言葉

　涙で滲んだインク　指でなぞりながら　君のぬくもり　君と過ごした証を確かめる

　

　あの日から３年の月日が流れ　海は今日も穏やかに微笑んで　
途方に暮れる僕の心を　優しく包む

　在りし日の君を想い　砂浜に　君の名と僕の名を重ね合わせ
　「永遠の愛　ここに誓う」と描いた

　そして海に向かって　君の名前を呼んでみた　心で感じる君の声　
君の存在をかき消すように　そっと打ち寄せるさざ波

　「あの日に帰りたい･･･」　ふたりで過ごした日々を指で数えながら

　君との約束がセピア色に褪せないよう　僕は今日も海にいる

　　　　　そして君のいない夏が　今年もまたやってくる・・・　　